プロレス名言『2・1札幌事変』
プロレス名言No.152「新日本プロレスのこのリング、我々の上にひとり神がいる。ミスターイノキ!」by蝶野正洋(黒のカリスマ)
プロレス名言No.174「俺は怒ってる」byアントニオ猪木(燃える闘魂)
プロレス名言No.175「プロレス界全部を仕切る器量になれよ!」byアントニオ猪木(燃える闘魂)
プロレス名言No.176「猪木さん、おれに全部任して欲しい。新日本は俺が仕切る!」by蝶野正洋(黒のカリスマ)
プロレス名言No.177「お前は怒ってるか?」byアントニオ猪木(燃える闘魂)
プロレス名言No.164「怒ってますよ!」by中西学(野人)
プロレス名言No.178「全日に行った武藤です!」by中西学(野人)
プロレス名言No.179「おめえはそれでいいや」byアントニオ猪木(燃える闘魂)
プロレス名言No.180「全てに対して怒ってます」by永田裕志(青義軍)
プロレス名言No.181「全てってどれだい?言ってみろ、俺か?幹部か?長州か?」byアントニオ猪木(燃える闘魂)
プロレス名言No.064「僕は自分の明るい未来が見えません!」byKENSO(クソかっこよく。ライフ。)
プロレス名言No.015「見つけろ!テメーで!」byアントニオ猪木(燃える闘魂)
プロレス名言No.182「俺は新日本のリングでプロレスをやります!」by棚橋弘至(100年に1人の逸材)
プロレス名言No.183「まあ、それぞれの思いがあるからさておいて」byアントニオ猪木(燃える闘魂)
プロレス名言No.184「俺に言うな!」byアントニオ猪木(燃える闘魂)
プロレス名言No.185「てめえ達の時代、てめえ達のメシの種をてめえ達で作れよ、いいか!」byアントニオ猪木(燃える闘魂)
プロレス名言No.010「チョーノー力」byアントニオ猪木(燃える闘魂)
上記の一覧を見て欲しい。
ざっとこれだけの名言がいちどきに大量発生した事件としてプロレスファンの心に深く刻まれる「札幌事変」は、2001年2月1日・北海道立総合体育センターで起きた、新日本プロレスのオーナーである燃える闘魂・アントニオ猪木の強権発動による現場監督強制交代劇及びその後に繰り広げられた面白珍問答の総称である。
事変が発生した背景には、オーナー・猪木の危機感があった。
この頃の新日本プロレスは、一連の橋本真也対小川直也で起きたゴタゴタやライバル団体・全日本プロレスのお家騒動により新日側の大黒柱である武藤敬司と営業部の中心メンバーが引き抜かれるといった内部的事象に加え、外部的事象として急激に勢いを増すPRIDEやK-1などに話題を持って行かれがちだった。経営陣のこの状況に対する意識の薄さに業を煮やした猪木は急遽現場視察に訪れる。それが2月1日の札幌大会だった。
この頃、ヒールとして団体を引っ張ってきた黒のカリスマ・蝶野正洋も、対抗勢力となるベビーフェイスのトップたる武藤がいなくなったことによる現場の混迷を断ち切り、猪木と経営陣の対立による混乱を排除するため、現場がプロレスに邁進できる環境づくりに関する言質を取ろうと猪木をリング上に呼び出した。
その後の流れは次のとおりである。
蝶野「新日本プロレスのこのリング、我々の上にひとり神がいる。ミスターイノキ!(プロレス名言No.152)」
リングに登場した猪木は「俺は怒ってる(プロレス名言No.174)」と言い、何に怒っているのかを説明する。ひとしきり説明すると猪木は突然「プロレス界全部を仕切る器量になれよ!(プロレス名言No.175)」と、蝶野を現場監督に任命する。
蝶野はこれを受け「猪木さん、おれに全部任して欲しい。新日本は俺が仕切る!(プロレス名言No.176)」と高らかに宣言した。
蝶野にしてみれば余計な責任を背負うことにはなったが、現場に余計な介入をしないという言質を取ったと考えたのだろう。しかしここからリングの上では歴史に残るズンドコ劇場が幕を開けるのだ!
おもむろにリングに上がる棚橋鈴木や第三世代勢。現場の意気込みを聞こうと気を回したのか、猪木はひとりひとりに「お前は怒ってるか?(プロレス名言No.177)」と問いかける。
口火を切ったのは野人・中西学だ。「怒ってますよ!(プロレス名言No.164)」と、野人らしいふんわりぼんやりした回答を親切な猪木が掘り下げる。「誰にだ?」中西は「全日に行った武藤です!(プロレス名言No.178)」と答える。対する猪木はあっさりこう斬り落とす。「おめえはそれでいいや(プロレス名言No.179)」掘り下げたのあんたじゃないか!
次は天下を獲り損ねた男・永田裕志だ。猪木の問いに「全てに対して怒ってます(プロレス名言No.180)」とこれまた範囲が広すぎてぼんやりした回答。カシン以外のアマレス三銃士は頭にもやでもかかっているのか?猪木が突っ込む。「全てってどれだい?言ってみろ、俺か?幹部か?長州か?(プロレス名言No.181)」永田は「上にいる全てです」とまた具体的な対象を示さない回答。すると「そうか、奴らに気付かせろ」と掘り下げることをやめる猪木。面倒くさがりだな!
次にマイクを向けたのは鈴木健三(現・KENSO)。「僕は自分の明るい未来が見えません!(プロレス名言No.064)」と、終わりの方に向かって絶叫調になる謎の主張。「見つけろ!テメーで!(プロレス名言No.015)」と猪木は突き放した。
最後は棚橋弘至。後に新日本プロレスをどん底から救い上げることになる棚橋は他のだれとも違う主張をした。「俺は新日本のリングでプロレスをやります!(プロレス名言No.182)」全く素晴らしい、まっとうな主張だったが、猪木は「まあ、それぞれの思いがあるからさておいて(プロレス名言No.183)」とひどく淡白だった。疲れたのか猪木!飽きたのか猪木!
挙句の果てに自分は引退した身であるとし、「俺に言うな!(プロレス名言No.184)」「てめえ達の時代、てめえ達のメシの種をてめえ達で作れよ、いいか!(プロレス名言No.185)」と幕引きを図る。蝶野が改めて決意を表明し、猪木の1・2・3・ダーでオールアドリブの珍問答はフィニッシュとなった。
控室にて記者の質問に答える猪木。蝶野の手腕に期待を寄せ、蝶野にはそれだけの力があると持ち上げる。そして。「チョーノー力(プロレス名言No.010)」クソダジャレをぶっ放してオーナー猪木はダハハハハと去っていった。
現場監督の交代により混迷が断ち切られるかと思われた新日本プロレスだったが、ガバナンスの失われた状況は全く解消されず、猪木はこれ以降も現場介入を繰り返し、その都度現場の情熱もファンの情熱も失われていった。坂道を転げ落ちるかのような新日本の凋落が底を打つにはホワイトナイトたるゲームソフト会社・ユークスの登場と、事変でひとりだけ別のこと言い、言ったことを忠実に守った棚橋弘至による現場改革を待たなくてはならなかった。
Photo credit: MIKI Yoshihito. (#mikiyoshihito) via Visualhunt.com / CC BY